Author:晴瓦時々雨瓦俄にΒ *投票所**日めくり表**経営状況**訪問所**宿帳来客**部屋名一覧表**月別記事数*
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優しい死神をリニュ-アルした作品です。
話の筋はそのままで、所々変わってます。 人名や表現に、新たに加えたシーンもあります。 もちろんカットしたところも。 【- PROLOGUE -】 【MEETHING - IT IS GOD OF DEATH -】 【MEETING - A MAN, WOMAN, AND WOMAN AGAIN -】 【RECOIIECTION - ABOUT ME -】 【FIRST DAY - HARMLESS PERSON -】 【FIRST DAY - MESSAGE -】 【THE FIFTH DAY - SENTENCE CONFIDENS -】 【THE SIXTH DAY - CONFESSION -】 【THE FINAL DAY - TO THE SEA -】 【THE FINAL DAY - THE UNDER OF POSITIVE OF SUMMER -】 【THE FINAL DAY - KISS AND TEARS -】 【- EPILOGUE -】
【- PROLOGUE -】
太陽がアスファルトを焼き、その熱がアパートの俺の部屋にも届く。 外では無数のセミ達が命を懸けた大合唱をし、遠くの町並みは揺らいで見える。 風のない窓に吊らされた風鈴は陸揚げされた魚状態。 日当たりだけを重視された部屋はまさに昼の砂漠。 部屋に寝ている俺は、白の大きめのTシャツとジーンズ姿で全身汗だくだ。 しかし、俺の頭だけは冷たかった。たぶん原因は今見てる物だろう。 今俺が見ているのは自分の額に刺さった大きな鎌と、その鎌の柄を握りしめた まだあどけない少女。 そしてその少女の口から出た言葉で俺の人生は大きく変化したのだろう。 「だって……私は死神なんですよ」 【MEETHING - IT IS GOD OF DEATH -】 夏の暑い日。風が無く、サウナ状態の部屋で俺は寝ころんでいた。 起きあがれなかっただけかも知れない。なにせ、頭に鎌が刺さっていたのだから。 本来、この異常事態で生きているというのは、たまに奇跡だ奇跡だと騒がれてるドキュメンタリーに取り上げられなければおかしいというものだ。 しかし、今自分は現にこの世に生きていて、自分の頭に刺さった鎌を見上げている。 「……あの、貴方誰ですか?」 人間驚くとすぐには反応できないように出来ているのだろう。なるほど、抜き打ちテストってのはこう言うことだな、などと呑気に俺は考える。 「え?」 と声を漏らしたのは勿論少女だ。少女は周りを見回してから俺を見て、恐る恐る聞いてきた。 「わ、私が見えるんですか?」 見える?見えて当然じゃないのか? だが少女のうろたえ様は凄かった。 「見えます」 少女は目を大きく見開いて言う。 「……嘘ですよね?」 「は?」 こうも立派に会話が成立しているにもかかわらず嘘というのは無理がある。 さすがに俺も混乱してくる。とりあえず、 「……どういうことですか?」と質問した。 「だって……私は死神なんですよ」 およそこれまでの俺の人生の中で、これ程までに驚いたことはなかっただろう。 そして頭に鎌が刺さっているのを見ていなかったら、少女を気が違った可哀想な子だと思っただろう。 そしてそのショックのおかげか、俺は今の状況を思い出した。 今の状況をまとめると、俺が今居るのは自分の部屋の床の上で、足下に倒れた椅子。 首にはロープ巻き付いている。 頭の辺りには好きだった週刊誌が人生相談の欄が開いたまま落ちている。 そして額には鎌が。 「……とりあえず鎌抜いてもらえませんか」 変?つくづく自分でもそう思う。 「ぇ?あ、はい。すみません」 といって俺の額から鎌を抜いてもらった。 抜いてもらうときは冷たい物がスーッと抜ける感じだった。ありがたい事に音はしなかった。 そして俺がしばらく放心状態にあると、 「あ、あのぉ?大丈夫ですか?」と死神が心配そうに声を掛けてくれる。 「多分、医者には行かないくらいで」 と変な返事を自分でも気づかないうちにしていた。 それからしばらくして徐々に頭の中がすっきりしてきた。 俺は寝ころんだまま強めの声で訊いた。緊張のせいかもしれない。 「ところで貴方は誰ですか?というか何ですか?鎌なんて持って」 そうきかれて少女は急にオロオロし始めた。 よく見ると目はもう半泣き状態。 「え?わ、どうしたんだよ?ちょ、ごめ、ゴメンって」 俺は急いで起きあがってとりあえず謝る。コレも男の宿命なのかな。 少女は小柄で並ぶと僕の胸辺りまでしか無かった。 俺はコレ幸いと、じっくりと少女を観察させてもらった。 見た目年齢は12歳から14歳くらいだろうか。 服装はゴスロリ風メイド服オールブラックお葬式モデルみたいな感じだ。 髪は黒で、瞳も深い吸い込まれるような黒。肌は透き通るように白い。 目は大きくて、眉は細いがしっかりとした形だ。唇はほんのりとピンク。うん、可愛い。 「……すみません取り乱しちゃって。ともかく質問には答えますね」 残念ながら少女は落ち着いてしまった。少女は目をこすると僕を見据える。 「私はさっきも言ったとおり死神です」 【MEETING - MISNDERSTANDING -】 俺を正面から見据えたその目には、不思議と力がこもっていた。 「いやだからそこが訊きたいんだって」 「そ、そんなこと言われたって、死神ですし……」 「じゃあ死神って何?名前とかってあるの?」 「死神というのは人の命を絶ちきる手伝いを行う立派な仕事なんです。これから魂が消えるという人に名前を言ってる暇なんて無いんですよ。だから自然と名前は必要なくなるんです」 「ふぅん、じゃあ他の人にも死神って見えるのか?」 「いえ、普通は見えないんです、でもなんで貴方には見えるんでしょうか?」 「さぁ……まてよ、そう言うことは俺死期が近かったのか?」 どうやら汗の原因は暑さだけではないらしい。 「はい、そうです。でも見た目は健康的なんですけどね。そう言えば名前聞いていませんでしたね」 「名前?名前は森宮 恭一」 「森宮 恭一……」 死神は少し考えてから 「……え?恭一?」 死神は素っ頓狂な声を出してから、手帳をとり出してパラパラとめくっていく。 「ああっ!!どうしよ!!」 今度は悲鳴だ。 「ちょっ、どうしたんだよ?」 死神は耳に入らない様子。 「どうしようどうしよう、間違えちゃったぁ」 「間違えた?どういうことだ、それ?」 死神はやっとこっちを見て、申し訳なさそうに顔を伏せる。 「すみません。鎌を指す相手を間違えたみたいで……すみません!」 死神は土下座をしたまま動かない。 「……で、その間違いで僕はどうにかなるんですか?」 「おもいっきりなります。単刀直入に言いますと……気絶しないで下さいよ?」 「しませんよ。まぁ、早く言って下さい」 「貴方は一週間後に死にます。しかし貴方はこれから一週間絶対に死にません」 「……これはどういうことかな?」 正直言ってサッパリ言っていることが分からなかった。 「期限付きの不死身ってところですね」 「はぁ、まぁ僕は死んでも構わないけど。どうせ本来なら今頃死んでるはずだったんだから」 「えぇ、どうして?」 土下座を解いた死神は目をキラキラさせながら顔を近づけてくる。 う、やはり可愛い。しかもいい匂いがする。やはり死神も女の子か? 「だって、ほら」 と言いながら俺はまだ巻き付いてる首のロープを指さした。 「へぇ、やることやってますね。」 と、死神はいかにも楽しそうに笑いながら言った。 「で、失敗して床に落ちて気絶ですか」 「・・・・・・まぁ、こんな事初めてだからな」 「そりゃ何回もやる人いませんよ」 そりゃごもっともな意見ですこと。 「まぁそのおかげで貴方は生き延びたしいいじゃないですか」 死神はかなり喜んでいるようだった。 その笑い方はやはり人間の女の子を思わせる。 正直今まで想像していた死神とはかなり違う。 「そういやまだ間違いについて聞いてなかったな」 「そうですね」 よく話が脱線する。 「で、その鎌ですけど、ホントは別の人刺すつもりだったんですが…」 「で、その別人は?なんで俺と間違えたんだ?」 「本来刺すはずだった人は、森宮 薫と言います。まぁ薫を男だと思ってしまった訳です。住所も近かったし、この辺りに森宮はここしか……」 確かに森宮はこの辺りでは俺の家だけだ。 しかし住所が分かってるんだったら最後までしっかり見ろよ。 「……男だと思って?って言うことは女か?」 「えぇ」 まぁ、どちらにも使える字だしな。 「まぁいいや、俺何となくその女に会ってみたくなった」 「いいですよ。この近くですし」 「そうか、なら会いに行こうじゃないか」 そういって俺はやっと立ち上がった。立ち上がりながらふっと見えた。 「でも死神もやっぱり女か、花柄パンツなんて……」 ガンッ。 顎下に痛みを覚えながら、女って怖いな、と思った。 【MEETING - A MAN, WOMAN, AND WOMAN AGAIN -】 俺は死神のすばらしいアッパーの後、顎に手当をしてからその女に会いに行く準備をした。 その女とは勿論、本来死神に魂をもってかれるはずだった女だ。 「ところでその女何処に居るんだ?」 「この先の大岳病院の患者ですよ」 「患者?ってことは病人か何か?」 「はい、しかも難病の」 なるほどな。そりゃ死神さんの出番ですね。 死神は魂を切り離すお手伝いか、言ったもんだな。 その後僕はその女に関して、いろいろと聞かされた。 その女の子は森宮 薫といい、年齢は俺と同じで17歳。 つまり女というよりかは女の子と言った方が良いのだろう。 数万人に1人位の珍しい難病らしいが、そこの所は良く分からない。 ともかく後どのくらい持つか分からないから、いっそ楽に逝かせようとの心遣いらしい。 そういったことを改めて考えながら、僕は大岳病院へとバスに乗っていた。 「ところで死神、人間死んだらどうなるんだ?」 初めて敬語じゃない自分に気が付く。 たぶん最初からだろうが、やはり死神の外見から年下に見えるからだろうか。 「それは教えられません。それにそんなこと人が見ているところで話してたら変人扱いですよ。たぶん私は貴方以外に見えていませんし、私の声は貴方以外に聞こえていません」 と、言いながら死神は隣の男の膝の上に腰を下ろした。 他の人には感じることもできないらしい。 「こういう場所では貴方は心に思うだけでこちらにも伝わるんです」 それを早く言って下さいよ。 「そんなこと言わないで下さいよ」 どうやらほんとらしい。 これはあまり変な気は起こさない方が良いな、と俺は決心した。 そうこうしていると、目的の停留所に着いた。大岳病院は停留所の反対側である。 停留所の後ろには地下鉄の駅もあり、交通の便が良い。 「じゃ、行きましょうか」 と、死神に言われ足を動かした。 病院までの坂が、緊張のせいだろうか果てしない距離に思えた。 病院に着くと上着を脱ぎ鞄に入れる。 院内はクーラーがきいていてヒンヤリとしていた。 ここにフカフカのソファーがあれば5分ほどで寝入ってしまうだろう環境には残念ながら、あるのはかなり座りこまれたガチガチのいすと萎びた観葉植物だけ。 「ところで恭一さん、香さんの病室は何処でしょうか?」 「さぁな。お前知ってるんじゃないのか?」 運悪く強面の兄さんと目があった。 「い、いえ、何でもありません」 しまった、思わず口に出してしまった。 「すみませんねぇ」 死神には反省が見られない。 ブツブツ言いながら受付に行って病室を聞く。 「第2病棟の3階か.....ありがとう」 受付の人に礼を言うと第2病棟へとむかった。 しかしさすがに大病院。 第2病棟といってもかなりの距離がありしかもかなり分かりづらい。 目的の病室に付いたときには病院に着いてからもう20分もかかっていた。 「……ふぅ、良い運動だった」 こんなに動いたのは何ヶ月ぶりだろうか? 「そんなに動いてなかったんですか?」 死神が呆れたように見てくる。 「なんせ引きこもりの不登校だったからな」 「でも太って無くて、傍目から見ればまだ大丈夫ですよ」 「大きなお世話だ。それにまだって何だ!まだとは」 「誰ですか?外で話してる人」 これは俺でも死神でもない。病室から聞こえてきた。 アレですか。俺の命を請け負ってる人は。 「そうですよ、じゃぁ中に入りましょうか」 進行係は死神か。 俺がドアを開けるとそこには、窓側の大きなキャンバスに向かっている痩せた少女の姿が。 これでこの物語の主役三人がそろったわけである。 【RECOIIECTION - ABOUT ME -】 俺は森宮 恭一。 幼いときに父親は女を連れてどこかにいき、世間から白い目で見られ続けた母親はある日、急に包丁を持って家を飛び出した。 警察に捜索願をだすと、その一週間後に胸に包丁の刺さった父親の亡骸の横で、放心状態にあった母親を近所の警察官が発見した。 今母親は殺人の罪で刑務所にいる。母親は俺の面会を拒んだ。およそ罪悪感からだろう。 その母親の気持ちを察して、俺ももう面会にも行かず母からの手紙もない。 そして俺近所からは殺人者の子供と言う名目で拒絶対象になっていた。 親父は出ていきその挙げ句母親に殺され、その母親は刑務所。 世間は俺を犯罪者の息子と呼び拒絶する。 17才の高校生にはきつすぎた環境。 学校にはもう行っていない。行っても冷たい視線しかもらわない。 それもまるで汚いモノを見るような。 朝起きたら玄関まで行って、未だに張り続けられる「出て行け」の張り紙をドアからはがし、コンビニで買った弁当を食って、週刊誌の人生相談のページを見て、他人の悩みを見て自分に重ねてみる。 こんな生活を続けて、ダメになっていく自分を終わらせようとロープを買い、自殺を試みた。 しかしロープのくくり方が甘く、ロープはほどけ、床に落ちた俺はそのまま意識を失った。 すると何故か死神が来て間違って俺に鎌を刺し、「一週間後にあなたは死ぬ」といって俺と共に行動するようになった。 自分でも今どういう状況かなんてよく分かっていない。ただこれだけははっきりしている。 俺は今の生活から抜け出せる道を見つけた。 【FIRST DAY - HARMLESS PERSON -】 病室にはかすかに緊張の空気が張りつめる。 「誰ですか?」 不安げに見つめる二つの目。 その目の持ち主は、本来死神に鎌を刺されて一週間後に死ぬ予定だった、森宮 薫。 その人だった。 彼女の後ろには巨大なキャンバス。 病室の天井にまで届かんばかりのサイズだ。 どうやってもちこんだろうか?ふとそう思った 描かれているのは様々な黄色系で埋め尽くされた花畑。 「誰ですか?」 もう一度きかれてそちらに目を向けると、小さめの右手に握られたナースコール。 「ん?あぁ、いや別に怪しい人間じゃないよ」 出来る限り落ち着いた声で対応するが、内心は緊張しまくっている。 「あなたは私に何の用?」 相手も焦っているのだろうか? しかし、その割りに感情が全く表に出てない。 「ただ君に会いに来ただけさ」 彼女はジッとこっちを見ていたが、急に緊張を解いた。 「分かったわ、貴方を信じるわ」 そして右手のナースコールを投げ出すと、イスに座ってもう一度こっちを見た。 「ねぇもっとこっちに来たら?私に会いに来たんでしょ?」 そう言うとベッドを指さした。 俺はそっと彼女に近づいていった。 「ぁ、その前にドアちゃんと締めてね」 俺はおとなしくドアを閉めると、改めて彼女に向かった。 そしてベッドに座ると、 「何で俺を信じたんだ?」と彼女に聞いてみた。 すると彼女はいきなり声を上げながら、 「ヤッパリ貴方を信じて良かったわ」といってきた。 そして笑い終えるのをまってから、 「ヤッパリってどういうことですか?」と出来るだけ丁寧に聞いた。 「だってあなたとても私に危害を加えそうな人じゃないんだもの」 と笑顔で答えた。 俺にはサッパリ訳が分からなかった 「どういうことだ?」 「まず一つ目」 と一本指を立てた。 「私を殺したりしようとするならドアを閉めて真っ先に私に向かってきたはずでしょ?なのに貴方はドアも閉めずに私のキャンバスに目をやっていた、しかも私がナースコールを掴んだときにも私の動きを封じようとはしなかったしね」 と笑いながら一気に説明した。 そこは笑う所なんだろうか? しかし、なるほどそれもそうだ、と俺は感心していた。 どうやら彼女の洞察力は素晴らしいようだ。 「次に2つ目」 と今度は二本指を立てた。 「貴方はとても印象に残りやすい」 「それがどう関係するんだ?」 「分からない?もしこの部屋で私が死んでたら勿論警察が捜査するでしょ?そのときに受付とかで誰か見なかったか?って訊いたら多分貴方が一番最初にに出ると私は思うわ」 自慢げに言い終わると、彼女は水の入ったペットボトルを手に取る。 「じゃあ何で俺が最初に出るんだ?」 彼女は水を飲み終わると、 「じゃ、説明してあげる」 早くしてくれ。気になってしょうがない。 「まず貴方のTシャツ。それ外国の奴じゃない?あまり見ない字よ。それにズボンは真っ黒だし、帽子なんてそんな目深に被って……顔がほとんど見えないじゃないの」 こうまでしっかり観察されていたのか。 内心恥ずかしくて顔が赤くなる。 たしかにTシャツは友人にロシア旅行のお土産としてもらったやつだ。 「よく受付で止められませんでしたね」 死神が口を挟む。 うるせぇ、ほっといてくれ。 そんな俺をほっといて彼女は笑顔で言う。 「貴方みたいに無害な人が来てくれて嬉しいわ。今時珍しいもの」 意味を考える間も与えずに、彼女は俺の右手にそっと手を触れた。 ん?この展開はもしかするともしかするかな? でも最近の女の子って言うのはこうも大胆なのか? しかし彼女は、1人空しく興奮してる俺に、 「丁度絵の具がきれてたの、これで買ってきてね」と言った。 なるほどいつの間にか俺の右手には500円玉が握られている 「買ってきて上げましょうね」 頭の中で死神の声が聞こえる。 【FIRST DAY - MESSAGE -】 俺は駅の近くの文房具屋で頼まれた絵の具を探し、レジに持っていった。 「え~っと515円ですね」 ぁ、足りねぇ。 「やられましたね」 死神に笑われた。 仕方なく自分の財布から15円だした。 「はい、515円丁度いただきます」 病院に戻るとまた病室を探すのに5分かかった。 病室を見つけると、自分が出来る限り一番キツイ顔で部屋に入った。 「ぁ、ヤッパリ買ってきてくれたんだ」 出迎えてきたのは満面の笑み。 その笑顔は健康そのものに思えた。 「金、足らなかったんだぞ」 「あっそう」 俺は何となく自分がマゾに思えてきた。 「でもこれでしっかり貴方のことが分かったわ。あなたって優しい人ね、そう思わない?」 はい、おもいます、なんて言う人はいるだろうか? いるとしたらそいつは、相当なナルシストだろう。 「そうだ、名前とか聞くの忘れてたね」 俺の話は名前無しで進行できるんだな。 「ところで」 急に彼女の声が厳しくなった。 「何で貴方は私に会いに来たの?」 「やっぱりその質問には答えないとダメか?」 俺はため息をつくと死神を呼ぶ決心をした。 「そうだよな、普通訊くよな。俺は森宮 恭一。来た理由は本人に聞いてもらおうか」 「本人?それって誰のこと?」 「死神」 「死神?ふざけないで!こっちは真面目に質問してるのよ?」 彼女の声が徐々に高まる。 「まぁ少し待ってくれ」 死神、他人に姿を見せる事って出来るのか? 俺は彼女の隣にすわっている死神に聞いた。 彼女はまたナースコールに手を伸ばしている。 「出来ますけど貴方はいいんですか?」 俺はいいよ。 そこまで言うと死神は大きく息を吸い込んだ。 とたんに彼女が叫ぶ。 「キャッ何?!コレ、どういうこと?!」 彼女がかなりあわてている。 どうやら死神が彼女にも見えるようになったらしい。 「それが死神だよ」 俺は静かに言った。 「しにが・・・み?」 そう言うと彼女はイスの上で気を失ったようだ。 「さて、俺達は今日は帰るとしますか」 「そうですね」 そして死神はまた大きく息を吸い込んだ。 便利な仕組み。俺は少し羨ましくなった。 そして俺達はナースコールを押してそっと病室をでていった そのとき俺は一つメッセージを残して置いた。 貴方に別の行き方を与えましょうか? 【THE FIFTH DAY - SENTENCE CONFIDENS -】 俺と死神が、彼女の病室を訪れてからもう3日。 その間何度も病院に訪れたが、いつまで立っても面会謝絶のままだった。 「今日も行くんですか?」 死神はマンガを読みながら言った。 「あぁ、面会謝絶になってなかったら合うつもりだ」 「ヤッパリショックが強すぎたんじゃないですか?」 「大丈夫今日はお前は留守番だ」 身の回りの準備をしながら言う。 「死神のお前が居なければ合ってくれるかも知れないからな」 死神はこっちを睨みながら、 「それってどういう意味ですか?」と訊いてくる。 俺は敢えてこの質問には答えないことにした。 「じゃ言ってくるよ」 玄関を出てから久しぶりに、玄関に貼られた『出て行け』の張り紙を処理した。 こんなの貼る奴はつくづく暇なんだな。俺は少し空しくなった。 そして駅まで行くと俺は、 「なんか死神が来てから俺って変わったのかな?」と考えていた。 学校にはまだ行かないものの、飯はちゃんと自分で作るし、マンガとかも読み始めた。 電車に乗りながら、ひさしぶりに学校も行ってみるか、と考えていた自分に驚く。 慣れた足取りで彼女の病室まで行くと、ドアには見慣れた『面会謝絶』の札がかかっている。 「今日もか。仕方ないな、諦めるか」 そう、ブツブツ言っていると、病室の中から数名の声がする。 気がついたら俺はドアに耳を押しつけて、話の内容に聞き入っていた。 「さて薫さん、今日の調子もいいようですね。この調子で頑張って下さいね。ではお父さんもお母さんも、今日はこのくらいで」 「毎日有り難うございます、それとお医者様、お話があるのですが外で」 「分かりました、では薫さん頑張って下さい」 会話が終わると足音がドアに近づいてきたので、おれはあわてて近くのベンチに座り置いてあった雑誌を広げる。 そして間一髪のところで眼鏡を掛けた医者とベテランという雰囲気の看護婦。 それと森宮 薫のスポーツマンタイプの父親と、小柄ながらも美人な母親がでてきた。 そしてドアを閉めると脇により、 「では、お話とは?」と医者が切り出す。 「はい、その、実のところ娘が最近無理して元気そうに振る舞ってる気がするんですが……お医者様が一生懸命してくれるのは分かってます。ですが……あの、正直に話して下さい!娘は……娘は後どのくらい持ちますか!?」 最後の方はもう叫ぶような感じで、母親はかなり取り乱しているようだ。 その肩にそっと父親が手を乗せる。 「お医者様、どうか本当のことを……」 医者は看護婦と目を合わせると眼鏡を外して大きく息をつくと静かにいった。 「お父様、お母様、非常に申し上げにくいのですが、香さんはもう一週間もつかどうか」 そう言い切ると医者は、 「申し訳ありません」と頭を下げた。 すると母親が大きくアァッと叫び、そのまま倒れるように床に座り込んで目を覆ってしまった。 それを父親が立ち上がらせると、俺とは反対側のベンチに座らせた。 母親はよく似ると顔の至る所にしわが目立ち、目は真っ赤に充血していた。 俺はそのいきさつを見届けると、おもわずこの前の出来事を無理してるようには見えなかったな、と 思わずにはいられなかった。 そして母親が疲れたのか、ベンチで寝入ると、俺はそばにいた父親に思わず話しかけた。 「あの、すみません、先ほどの事を見てしまって」 すると父親は驚いた顔もせずにいった。 「そうですか、いや、お見苦しいところを見られてしまったようで」 父親は微笑しながら言ったがその笑いにも無理が見て取れた。 「実は僕、最近ずっとそちらの娘さん、薫さんに会おうとここに通っていました。もし薫さんとお会いできるなら、あって少し話がしたいのですが」 すると父親は驚いたように目を見開いてこちらをまじまじと見つめる。 そして俺と向き合うと真剣な眼差しで挑むように訊いてきた。 「するとあなたは薫が言う『不思議な優しい人』ですかな?薫が言うには初対面にもかかわらず、絵の具を足りないお金で買ってきてくれたり、気を失った時ナースコールをならしてくれたり、自販機までお茶を買いに行ってくださったそうですね」 「まぁ、はい、優しいは置いて確かにそれは僕のことのようです。ただ自販機でお茶は買っていませんよ」 この父親は頭が切れるらしい。何気なく嘘のトラップをおいてきた。 すると父親は急にほほえむと、 「なるほど、香も良い友達を見つけたな、分かりました、どうぞ香の会ってやって下さい、貴方ならこちらも安心して病室に入れられる、これからは面会謝絶でも自由に入っても構いませんよ」と言ってくれた。 「有り難うございます」 そして俺は父親に向かってお辞儀をしてから病室へと入っていった。 病室には彼女がいた。彼女は健気に大きなキャンパスに向かって筆を踊らせていた。 「パパなの?ママ?」 「それとも不思議な優しい人かな?」 そして彼女は振り向いた。小さな悲鳴と共に。 「お父さんには許可をもらったよ」 落ちた筆を拾いながら僕は彼女に言った。 「どうして来たの?」 彼女は回りを見渡しながら言った。 「死神なら今日は居ない、家で留守を頼んでいる」 筆を手渡しながら俺は言った。 「今日来たわけはまず自己紹介、それと君について」 彼女はキャンバスの前のイスに腰掛け静かにベッドを指さした。 「ありがとう。この前僕は君にきちんと挨拶してなかったね。改めて俺の名前は森宮 恭一だ。同じ森宮だから覚えやすいと思うけどね」 そして俺は手をさしのべながら小さくよろしくと言った。 すると以外にも彼女も手を伸ばし僕の手に触れた。 そしてはっきりとした口調で、 「貴方にまた会えて嬉しいわ」と笑顔で言った。 やはりそれは無理に作った笑顔ではないように思えた。 「じゃぁこれから重要な事を話したいんだけど?いいかな?」 すると一瞬彼女の顔がこわばったがすぐに笑顔になる。 「死神を見たんだもの、もう何にも驚かないわ、例えそれが非現実的なことでもね」 その言葉におれは安心してゆっくりといった。 「俺は後3日で死ぬ、あなたは医者の見方によるとあと1週間もたず3日ほどらしい」 彼女の顔からはもう笑顔が消えていた。 そして急に立ち上がったかと思うと、俺に近づいてきて……。 バシッ 。 顔の左反面に痛みが走る。 「あなた、そんな話をするためにここに来たの?出てって、今すぐ出てってよ!!」 そして彼女はドアを指さして、 「もう来ないで」と冷たく言い放った。 そして俺も立ち上がり、彼女の指す方向へ向かう。 そのとき不意に俺の頭の中に死神の声が広がる。 「私が変わります」 そういってキャンバスの裏から、死神が出てきた。 「薫さん、貴方別の生き方してみませんか?」 彼女は大きく見開いた目を死神に向ける。 「生き方?」 彼女は精一杯の力を振り絞って言った。 「そうです、あなた、さっき恭一さんから残りの命を聞きましたね?それは変えようのない事実です、そして恭一さんが死ぬのも変えようのない事実です」 すると突然彼女は叫びだした 「何よ!!何でよ!!何であの人みたいな健康そうな人が死ぬのよ!!私は嫌よ!!このまま病室に閉じこもって死ぬのなんか嫌よ!!」 倒れそうになる彼女を俺はそっと後ろから支える。 「俺が死ぬのは死神が俺とお前を会わせてやるためにしたんだよ」 こんな時だ。死神だって愛のキューピッドにしてやる。 「……香さん落ち着きましたよ」 すこしして病室から死神が出てきた。 今は夜の11時。薫の両親も帰って、薫の病室にいるのは俺と死神と薫だけ。 俺は香の病室に戻り、薫のベッドの近くに腰を下ろした。 「さっきはすまないな」 薫は俺と目も合わせずに、 「別に、もういいよ恭一」と小さくつぶやいた。 香は少し起きあがって静かに言った。 「こっちこそゴメンね急に取り乱したりして」 その声は暗い病室に驚くほど響いた。 「いや、こっちの方が謝らないと」 俺は香と距離を取った。 「何を謝るのよ?余命のことだったらこっちは感謝してるのよ?」 俺はなんとなく香は本当に3日後に死ぬのか?と考えるようになってきた。 「いや、薫、俺が謝らなければ行けないのは」 香が少し近づいて俺の手を取り、 「だぁかぁらぁ、何を謝るのよ?」と甘えた声を出す。 あれ?俺何時からこんなにモテるようになったんだ? 「いや、その、薫を受け止めた時に、その、え~と、その」 「はっきりしないわね、早く言いなさいよ。もう本当に何があっても私驚かないわよ」 と笑顔で俺の手を握る手に力を加えた。 そして俺は謝る決心をした。 「薫、俺薫を受け止めた時に薫の胸さわっちまった」 ゴキッ。 「ウギャッ」 【THE SIXTH DAY - CONFESSION -】 俺は次の日の朝。一番に昨日痛めた手首を外科の先生に診てもらった。 その時医者がにやついていたような気がしたのは気の現れかも知れない。 手首は2,3日湿布を貼ってたら治るらしい。 そのころ死神はキャンバスの裏に隠れて、全てを見ていた。 そして一言。 「後でもう一回ひねってやろ」 そして昼頃。薫の病室には俺と死神。そして香の両親がいた。 「恭一君、と言ったね?」 急に話しかけられて、イスから落ちそうになる俺。 それを見て香とキャンバスの裏の死神が笑うのが聞こえた。 「は、はい」 「その、なんだね?薫の事を、どう思っているのだね?」 「はぁ、それはもう、良き友人として……」 「いやいや、そうではなく好きか嫌いかでだよ」 俺は困った。正直言ったら俺は薫のことが好きだ。 しかし本人の前で言おうか言いまいか。 すると薫の母親が助け船を出してくれた。 「そんな急に訊いてあげたら恭一君が可愛そうよ」 その通りですお母さん。 「でも勿論好きなんでしょう?だって昨日香に付き添ってくれたそうじゃありませんか、只の友達じゃ出来ませんよ」 と、笑顔で言ってくれた。 お母さん……。 しかしその時俺は、その笑顔に浮かんだ物寂しげな感情を見て取った。 男森宮 恭一腹をくくりました。 「お父さん、お母さん、薫、俺薫の事が好きです!!」 俺は香の父親と母親の前で、イスの上ながらも深々と頭を下げた。 「お父さん、お母さん、少し先生を呼んできて」 父親は母親と目を合わせ、香を見て香がうなずくのを見ると先生を呼びに出ていった。 そして改めて病室には俺と香+死神だけが残った。 「ねぇ恭一、私取っても嬉しかった、恭一が私のことを好きだっていってくれて」 そう言う声はかすかにふるえていた。 「でも恭一、私明後日に死んじゃうんだよね?それなのに……私、すっごい嬉しい」 「香、俺も嬉しいよ」 そう言うと俺は薫をそっと優しく抱きしめた。 こんな急展開、どこぞの純愛マンガか小説じゃないと実現しないと思ってた俺の馬鹿。 「でも香、死んでも俺はお前と一緒だ。それに俺には薫に大きな恩があるんだ」 畜生。言うことまでセリフじみてくる。 薫がとまどうのが肌を通して感じられる。 「薫がいなかったら俺、こんなに泣くこと出来なかったよ」 気がついたら俺は薫の肩で思いっきり泣いていた。 そして薫も、涙で俺の手を濡らしていた。 「恭一、死ぬ前に一つくらいわがまましても良い?」 「あぁ、いいさ、なんだい?」 「私海に行きたい」 「でも、それには医者の許可が……」 「だからお父さんとかに呼びに行ってもらったの」 「なるほど、分かったもし医者が赦してくれたら絶対に行こうな?」 そして薫の手に力が入り、 「うん!!恭一、とってもうれしい!!」と笑顔で嬉しそうにいった。 そしてその笑顔が近いな、と思っていたら薫が正面から俺に抱きついてきた。 俺は永遠にその時が続くように願った。 かすかにドアの開く音がした気がする。だがそんなの俺には関係ない。 「恭一さん、恭一さん」 久しぶりに死神の声を聞いたような気がする。 そして目の前には満面の笑みの死神がいる。 ここは病院の近くの喫茶店。 「でも、よかったですね、海への許可が出て」 「そうだな、海かぁ」 そう言いながら俺はコーヒーをかき回していた。 あの時病室には抱きついた俺と香がいて、それを医者は唖然とし、香の両親はにこやかに見ていた。 薫の幸せそうな笑顔と初めての青春を。 【THE FINAL DAY - TO THE SEA -】 俺と薫の命の最終日。 今日は俺と薫2人きりで海に行く日だ。 海に行くためのお金や車椅子は、薫の両親が用意してくれた。 朝早くから俺は病院に薫を迎えに行く準備をした。 時計を見ると短針は7時を指していた。 迎えるまで後1時間。帰りは午後5時。時間はたっぷりある。 「恭一さん。あまりはしゃいで怪我しないで下さいよ」 「あぁ、分かってるよ。さて行くとするか」 死神が窓から手を振っている。手を振り返すと足取りが自然と軽くなる。 病院に着くと薫の両親が出迎えてくれた。 俺が着くとすぐに薫の父親が薫を連れてきてくれた。 薫は麦わら帽子に水色のワンピースを着て車椅子に座っている。 「おはよ恭一」 薫が手を振りながら近づいてくる。俺も手を振り返す。やはり命の最終日。 薫の顔は初めて見たときよりも一層青白くなって頬もこけ、ただでさえ小さい頭がより小さく見える。 「ではお父さんお母さん香さんをお預かりします」 そう言うと俺は車椅子を押して病院を離れた。 【THE FINAL DAY - THE UNDER OF POSITIVE OF SUMMER -】 電車に乗ると多くの学生風の乗客を見かけた。 なるほど、今はもう夏休みなのだろう。 「俺は夏休みなんて実感したの何年ぶりだろ?」 「学校に行ってないの?もったいない」 「外に出るのが嫌だったんだよ、でも死神のおかげで俺の人生、変わったよ」 「外に出たくても出れなかったけど、私も死神に人生変えてもらった。……短いけどね」 僕は薫の声の感じから彼女が泣いていると感じた。 俺は薫の頬をそっと手で拭いてやった。 「ありがとう」 電車のアナウンスが俺達の目的地を告げている。 「さ、薫降りようか」 「うん」 駅のホームに降りると、反対側には小さめの浜辺が広がっている。 浜辺には家族連れらしき姿も多く見られる。 「恭一!早く行こう!!」 薫はさっきとは変わってまるで5,6才の子供に戻ったようにはしゃいでいた。 浜辺は真夏の太陽の下に輝いていた。 浜辺につくと香は手を出しながら、 「恭一、立ち上がるの手伝って」 と俺の方を満面の笑みで見て頼んだ。 なので俺は薫の正面に立つと、そっと手を引いて体を支えて立たせた。 そして薫は浜辺に足を入れると、小さく嬉しそうな声を上げた。 「薫、楽しいか?」 俺は笑いながら聞いた。 「うん、とっても!!恭一有り難う!!」 そう言うと俺の方に体を託した。 「みんな見てるよ」 俺は笑顔で香を抱きしめた。 そしてその後ずっと、香は浜辺を歩いたり、波に足をつけたり、貝を拾ったりと、幼い子供のようにはしゃいだ。 ただ、やはりあまり無茶は出来ないらしく、はしゃぎ方にも遠慮が見られた。 それでも心の底から楽しんでいるのは良く分かった。 そういう幸せそうな香を見ながら、俺はコレを考えざる得なかった。 俺も薫も明日で死ぬんだよな。 そろそろ約束の時間になってきた。 「薫、そろそろ帰らないとな」 すると薫は少し淋しそうな顔をしたが、 「うん、分かった」と素直に応じてくれた。 そして車椅子に座ろうと、歩き始めた直後、急に糸が切れたように薫は浜辺に倒れてしまった。 「か、薫!!!」 俺は走って薫に駆け寄った。薫は小さく荒い息をしていた。 「薫!!しっかりしろよ!!」 俺は急いで医者にもらった薬を出して、近くにいた家族連れに水をもらい大急ぎで薫に薬を飲ませた。 すぐに薫の呼吸は元に戻り、薫はこっちを見て小さく、 「ありがとう」と言った。 俺は車椅子に彼女を乗せて、駅まで連れていった。 その間薫はなんとか持ちこたえてくれた。 電車に乗ると、薫が軽く寝息を立てているのが分かり、そっと寝顔を覗いてみる。 じっくり見るのはこれが初めてだ。 薫の肌はガラスのようになめらかで白かった。 そしてその寝顔が幸せそうなのを見ると、俺は薫を海に連れてきて良かった、と心の底から思った。 しばらく見ていると、薫の呼吸が止まっていることに気が付いた。 「か、薫?おい、薫!どうした?おい!」 周りの乗客が騒ぎ始める。 薫の体を揺さぶりながら顔をのぞき込む。 ……気が付くのが遅かった。遅すぎた。 【THE FINAL DAY - KISS AND TEARS -】 次の瞬間俺の唇には何かもう一つ柔らかいものが当たっていた。 ん?なんだこの柔らかいやつは? それに顔に何か暖かい空気が当たるような……。 そこまできてやっと思い当たった。 唇から柔らかいものが離れると、目の前には香の悪戯っぽい笑顔。 急に俺は顔が赤くなるのを感じた。 「馬鹿野郎!!心配するじゃないか!!」 俺は自分でも驚く位の声で薫を怒鳴っていた。 とたんに薫の顔がこわばり、そのまま俯く。 「ご、ごめん……なさい」 薫の頭に手を乗せ、息を付く。 「これでおあいこだ」 そしてくしゃくしゃっと薫の頭をなで回す。 薫がキャッキャッいいながら笑う。 見ると乗客が此方を怪訝な目で見ている。ただ1人、向かいのおじいさんだけが微笑んでいた。 病院前の駅に着いた。病院に着くとその日も病室で過ごすことを香の両親に許された。 夜の病室では薫は疲れからだろうすっかり眠ってしまった。 なので俺は死神と明日について話し合っていた。 「俺明日死ぬんだな」 「そうですね」 「この呪い?解けるのか?」 「解け無いことはありません」 「その方法はどんな方法だ?」 「誰か別の異性に対して心を開くことです」 「心を開くってどうやっ・・・・」 「ウゥッ!!アッ、カハァ!!!!」 俺はダッと立ち上がると薫に走り寄った。 「どうした!!薫、薫!!!」 俺は必死にナースコールを掴むと思いっきり押して必死に薫に呼びかけ続けた。 そして医者が来ると薫は病室から連れて行かれた。 それを見た死神は時計を見て、 「命最終日です」とだけ静かに言った。 俺は死神を見据えるとあらん限りの声で怒鳴った。 「じゃあ、何で俺は苦しんでないんだよ!!!!」 死神は少し考えると急に深刻な顔で俺を見てきた。 「恭一さん、あなた、薫さんとキスしませんでしたか?」 その言葉を聞いた途端俺はある考えにたどり着いた。 「ま、まさか、異性との心を開く方法って……キス?」 死神が小さく頷く。 「チクショォォ!!!」 俺は思いっきり叫んだ。そしてそのまま病室から出ようとした。 すると死神は俺の前に立ちはだかって、両手を広げた。 「どいてくれ、俺に行かせてくれ」 オレは静かに言った。 「それは、出来ません」 死神も静かに言った。 そして死神はあの大鎌をだし、病室の出入り口に構えた。そして、 「貴方を通すことは出来ません!!!」 とだけ叫ぶと黙ってしまった。 そのときの死神は、泣いていた。大粒の涙を流しながら、泣いていた。 「お前、もうこんな事嫌なんだろ?死神の仕事が嫌なんだろ?」 「こんなこと好きな人なんて居ませんよ」 死神はそっと言った。 「仕事仕事といって人の命を絶ちきって、そんなことが好きな人なんかいませんよ」 彼女は泣き続けた。 「でもな、俺は行く。たとえお前が俺を殺すつもりで来ても俺は行く」 と、俺は言い死神に向かっていった。 死神が一瞬動く。 バキィッ。 左腕に鋭い痛みが走る。 「ッ!!」 声にならない叫びを上げる。 「私はあなたを殺し……」 俺は折れた左腕を下げたまま死神に向かっていった。 「通してくれ」 俺はもっと近づいていった。 ザクッ。 今度は左肩を大きく斬られ、そこから血があふれ出す。 しかし俺は決して後ろに引きはしなかった。 グキッ。 ザシュッ。 ガッ。 ガツッ。 バキッ。 ドンッ。 しばらくの間暗い病室に、骨が砕ける音が響き、血が飛び散った。 「ハァハァ」 俺も死神も荒い息をついてる。 俺は怒りと苦痛から。死神は悲しみから。 「何で自分で生きることをしないんですか?」 死神は問う。しかし俺は答えない。 「何で自分は生きれるのに。何でですか?」 俺は静かに答えた。 「一度捨てた命だから」 死神が目を見開く。 「それに光を与えてくれた命を助けるために」 死神が鎌を下げる。 「無駄と分かっていても何もせずにいるのは嫌だから」 死神は笑う。カチャンという音と一緒に大鎌が床に落ちる。 「それは貴方の間違いですよ、恭一さん、貴方は死にかけた命に光を与えたんですよ」 死神が近づいてくる。 「私を殺して下さい、そうすれば呪いは解けます」 そう言って死神はまた近づいてくる。 「……」 パシィンッ いつの間にか俺の手は、死神の頬を思いっきりひっぱたいていた。 「そんな弱音履くなよ。お前は死神だろ?これからも生き続けるんだ、いいな?」 死神は呆然としたまま立っている。 「今の呪いは俺が自分で解決する、誰の手も借りない」 そして俺は病室から出ようと歩き出した。 そのとき死神が鎌を振り上げ走ってくるのが目の端に見えた。 グサッ。 なんだ。こんなもんか。もっと派手な音がすると思ってたのに。 手になま暖かい血の感覚が伝わる。 「……何でだよ、何でなんだよ!!」 そこには鎌を床に放り投げ俺に身をゆだねた死神と、手に果物ナイフを握って立っている俺がいた。 俺が掴んだ果物ナイフは、深々と死神の腹に飲み込まれていた。 「こ……れで、呪い、は……解け、ました」 そして俺の唇に死神の唇がかさなる。 「女の子だも……んね。このく……らい、しても……良い、で……しょ?」 言い終わると死神の手がだらんと床に落ちる。 とたんに死神の亡骸と血は灰となって消えていった。 そこにはナイフを持ってボーセンと立ちすくみ、全身に傷を負った俺がいた。 俺はその場に座り込んで泣いてしまった。 【- EPILOGUE -】 今俺が見ているのは病院の白い天井である。 そして隣のベッドには薫が寝ている。 あの死神のおかげで呪いは取れた。 俺はあの後薫は死んだのだと信じ込んで、ずっと病室に座り薫と死神の死を悲しんでいた。 するとそこに涙を流した薫の両親がきて、俺の傷を見てすぐに医者を呼んでくれた。 治療を終えて、意識が回復した俺に、薫が原因不明ながらも奇跡的に持ち替えし、安静にしていたら完治すると医者に伝えられた、と薫の両親が報告に来てくれた。 そして安心した俺はその場でまた泣いてしまった。 だが死神の残した傷はかなり酷かったらしく、俺は全治4ヶ月だと告げられた。 だが今は身よりの居ない一人暮らしの俺には、そんな金は払えず悩んでいると、薫の両親がいつの間にか入院費用を一括で払ってくれた。 後で薫に聞いたところ、薫の家は有数の資産家だそうだ。 しかもその後、俺を預かってくれるという事だ。 そして大学まで卒業したら、俺と薫の結婚まで考えてるとのこと。 何とも気が早いお義父さんとお義母さんだ。 心配になって、俺の身の上を話したが、そんなことはどうでもいい事だ、とお義母さんに逆にたしなめられてしまった。 この事を聞かされたときには思わず苦笑いせざるえなかった。 しかしなぜ婚約まで話が進んだのかと薫に聞いてみたが、いつも笑って流され、未だに真相が分からない。 しかしこれでもう俺は世間から殺人者の子供として拒絶されることもなくなった。 ましてや一番の吉報は薫が高校に行ける事だ。 しかも両親が俺と同じ高校に入学させたいのだとか。 この2,3日で俺の暮らしは全く変わってしまったようだ。 だがそれの殆どが言い方向に傾いている。 「ねぇ恭一?」 不意に隣から声をかけられた。 「なんだ?起きてたのか?」 「何で私が今生きてるか教えて上げようか?」 懐かしい笑顔がこっちを向いている。 「あぁ、是非知りたいね」 俺はニッと笑ってみた。 「あのね……やっぱ教えなぁい」 「おい、そりゃないぜ」 「ふふふふふ、そうだなぁ。死神さんのお陰とだけ言っとこうかなぁ」 「死神?」 「うん」 そこから先は何を話してくれたかも覚えていない。 俺は死神のことをひたすら考えていた。 確かにあの死神は何処か違っていた。 もしかしたらあの死神は天使になった方が良かったんでは? それがなんかの間違いで死神に……。 それか天使より死神の方が優しいのか? いや、案外死神こそ天使なのかも。 と、いろいろな仮説が頭の中を駆けめぐる。 しかし事実はいつも今にある、とは言ったものだ。 俺は生かされて薫は助けられて。 死神は?死神は死んだがそれと共に、死神は天使になった。 なぜなら死神の亡骸の灰に一つ、真っ白な羽が混じっていたからだ。 綺麗な透き通るような白い羽。 これはなんとなく、俺だけの秘密。 【END】 スポンサーサイト
えぇと、今父が、
「お金はもうありません」 宣言をしました。 どうやら失業予備軍になったらしいです。 会社はもう長くないとか。 というかもう潰れたとか、なんとか。 まぁもともと去年の秋頃には聞いてた話ですが。 それでも何か現実を、 まざまざと見せつけられたような気がしてなりません。 しかし失業したとなると、 養子の父は分が悪いと思います。 家の祖父母が雇って、 畑で働かせると言う手もあるんですが、 今家には雇って給料を払う余裕がありません。 あぁ、うん、なんか、 なんか世間って厳しいね。
さて、今日は塾行く途中に、
歩道の9割近くをふさぐ車がいたんで、 それを避けようと車道に出たら、 歩道と車道の段差に自転車のタイヤが擦れて、 そのまま横倒しに……。 自転車は無事でした。 自分は右手首を思いっきりついたので、 手首の当たりが擦れて痛いです。 しかも関節も少し痛いです。 しかも転けたときに刺したらしく、 右膝の丁度横に、深さ3㍉ほどの剔った後がありました。 それと左足はすねの部分がちょっと腫れてます。 でもたいして痛くなかったんでそのまま塾に行きました。 でもまぁ、やはり深く剔ったんで、 ズボンが血と膿にたくさんシミを付けられました。 今は大分落ち着いて、 傷も血が固まって、剔った部分が再生し始めてる気がします。 ただ傷周辺がゴルフボールほどに腫れてます。 触ったら勿論痛いです。 しかしなんですね、我ながら転けるとは、 いやお恥ずかしい。 まぁ原因は携帯片手に歩道を塞いでたあの車ですがね(ぁ。
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